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「今が正念場、日本の運命を救えるのは、実は皆さん、あなた方なのです」

全日本剣道連盟アンチドーピング委員会委員長であり、日本の免疫学の第一人者である宮坂昌之先生より、新型コロナウィルスに関する緊急メッセージを頂きましたので共有します。

この原稿は、講談社ブルーバックス公式ホームページに掲載予定のものです。※共有にあたり許可を頂いております。



新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威を奮っています。スペイン、イタリア、フランス、イギリスのヨーロッパ諸国では、下のグラフにあるように、ものすごい勢いで感染による死者が増えつつあります。感染拡大は米国にも伝播し、3月24日時点で、感染者が4万2000人を超え、死者は600人に達しました。



これに比べると、日本は今のところ、一見、感染拡大を何とか食い止めているように見えます。総理府の専門家会議が2月24日に「1、2週間が瀬戸際」との見解を示してから、約1ヵ月経過しましたが、いまだに爆発的な感染拡大は起きていません。自粛疲れもあり、緊張感も緩み、市民の間ではなんとなく「解禁ムード」すら出ています。実際、東京や京都のお花見ができるところでは結構な人手となり、さらに東京、大阪のライブハウスでは若い人たちが相変わらずたくさん集まっているようです。2020年3月25日には、文部省が新学期からの「学校再開ガイドライン」を公表し、事実上、小中学校の休校措置が解除されました。あたかも危機は過ぎ去ったようにも見えます。

しかし、皆さん、実は日本は正念場に差し掛かっていることをご存じでしょうか? 現在、日本を感染拡大の第二波が襲っています。1月〜2月、中国および中国帰りの渡航者によって持ち込まれた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第一波が日本を襲いました。幸いにして、大規模感染を起こすクラスターをシラミ潰しすることで、かろうじて感染爆発を封じ込めてきました。しかし、ここにきて世界各地に拡散したCOVID-19に感染した大量の外国人や日本人旅行客が入国することで起きる感染拡大の第二波が起きています。

 政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」でクラスター対策の分析等を担当している北海道大学の西浦博教授は、保健医療従事者に向けて発信した緊急メッセージで、危機感をあらわにしています

「それは1月から2月上旬に中国および中国帰りの渡航者を端緒として始まった流行の比ではありません。非常識を承知で分かりやすいようにミサイルで例えると、1月から2月上旬は短距離ミサイルが5~10発命中した程度ですが、この3月のパンデミックは(中略)空から次々と焼夷弾が降ってきているような状態です。そこで「火事を一つ一つ止めないといけない」というようなのが今の状態です」

もし今、感染経路のわからないクラスターが大量に発生すると、しらみ潰しに感染経路を遮断することは不可能になり、日本もただちに上のグラフにあるようなヨーロッパ諸国の仲間入りをすることになります。欧米諸国で感染が急激に進んだのは、周囲の人を大量に感染を拡大させるクラスターを見逃したことによって、症状がない、いわゆる無症候感染者を野放しにしたためです。彼らが社会の中で動き回ることで、いつの間にか感染が爆発的に広がり、それとともに死者が急激に増えていったのです。

この新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が怖いのは、インフルエンザとは異なり、感染してもすぐに症状が出ないことです。感染した人が発症して診断に至るまでにはなんと平均7日もかかります。このために、知らない間に、しかもあっという間に感染が広がってしまうのです。西浦博教授が示された計算式によると、東京都で感染のピークを迎えたときには、1日当たりの外来患者がおよそ4万5000人、入院患者がおよそ2万人、重症患者が690人余りとなります。

このような爆発的感染拡大が起こると、東京だけで一日2万人の入院患者と700人近くの重症患者が出ることになるのです。私が知る限り、東京都がもつ感染症患者用ベッドは200床足らず、一般病床は10万足らずです。つまり一日で感染症患者用ベッドは埋まり、一般病床ですら数日のうちに感染者で埋め尽くされることとなるのです。現在、東京都は、民間の医療機関にも協力を要請して、重症の患者を受けるために最大で700床、中等症の患者については最大で3300床まで段階的に増やすことを目指していますが、大規模な感染爆発が起きれば、焼け石に水です。

重篤な症状に陥った高齢者が病院に押し寄せれば、医療機関はたちまち対応能力を失い、「医療崩壊」が起きて、救える命も救えなくなるでしょう。被害が及ぶのは高齢者ばかりではありません。死亡率こそ高齢者ほど高くはありませんが、日本の労働を支える若年、中年層も入院を余儀なくされ、少なからぬ方が亡くなり、貴重な労働人口が我が国から急激に失われていくこととなります。

イタリアやフランス、米国のニューヨークのように、都市機能を封鎖する「ロックダウン」が行われれば、多くの会社の操業が止まり、大量の失業者が生まれて、日本の経済は急降下し、倒産する企業が相次ぐでしょう。

 日本がこのような悲惨な状態に陥るのか、なんとかここで踏みとどまれるのか、私たちはいま重大な分岐点に差し掛かろうとしています。

 前述の北大・西浦教授は悲痛なメッセージを送っています。その一部をここに引用します。

「今後、大規模流行が起こるリスクが高いことを、私は危惧しています。現状では、市民の皆さまがそこまでの危機意識をもってこの流行に対峙したり、一人一人の行動を考えていないものと思います。過度の行動制限や都市封鎖などで見込まれる経済的ダメージが起こらないように、50人以上の大規模イベントへの参加をやめ、2次感染が何度か発生した3条件の重なる場所(例えばスポーツジム、ライブハウス、展示商談会、接待飲食など)およびその他の機会(懇親会など)の接触を控えることができないといけません。ぜひとも全国の保健医療従事者の皆さまにまずこのことを知っていただき、皆さんが知識の伝道者となっていただかなければなりません。今、頑張って皆で行動を変えることができれば切り抜けられる可能性が高いです。皆さんの力が必要です。お願いします、助けてください。」

皆さん、おわかりいただけたでしょうか? 今がまさに正念場です。そして、日本の運命を救えるのは、実は皆さん、あなた方なのです。

大阪大学免疫学フロンティア研究センター・招へい教授
宮坂昌之

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