取材・文=安藤雄一郎
写真提供=バローホールディングス、服部幸子(漱玉館指導員)
岐阜県可児市に、道場「漱玉館」(そうぎょくかん)が完成し、11月から本格始動することになった。
この道場を建設したのは、伊藤青少年育成奨学会。スーパーマーケットのバロー創業者である故・伊藤喜美氏の個人資産の一部を基本財産に設立され、県内のスポーツ振興助成や地域振興事業を展開してきた会である。財団設立20周年の節目として、日本武道の継承や普及・進行をはかり、地域社会貢献に寄与するために武道場を建設することになった。
道場建築の参考にしたのは、バローホールディングスの田代正美社長と懇意の間柄にある小西酒造(株)が兵庫県伊丹市に所有している道場「修武館」。漱玉館での師範役となった髙石和摩教士八段らが何度か現地に足を運び、床材などを検証。また、「城のなかにある道場」をイメージさせるため、周辺にも相当の趣向が凝らされている。巴御前が植えたとされる松の子孫を受け取るため、田代社長が直々に富山県まで訪問したのだという。道場正面に掲げられている「大神」と「大神」の二つの字は、鹿島神宮と香取神宮の神官からいただいたものだが、両神官とも名字が「鹿島」「香取」だったという偶然を得たのも何かの縁といえよう。
可児市の隣には多治見市がある。夏場の最高気温を記録するニュースでよく登場する市だが、この道場は可児市内の高地にあるうえ風通しの良さにも相当配慮してある。また、道場前にある堀から流れる水が涼しさを感じさせてくれる。
道場は、バローを核とするバローホールディングスの人材開発センターである「嫩葉舎」(どんようしゃ)に隣接している。スーパーマーケットを経営しているだけあり、この人材開発センターには巨大冷蔵庫や調理・加工実習等の設備が充実。なおかつ宿泊研修もできるように、100名規模が泊まれる部屋や大浴場もある。建設されたのが2019年と、設備自体も真新しい。
11月からは岐阜県剣道連盟の稽古会が月に2度行なわれることになった。また、多治見市や可児市の連盟や剣友会の稽古場として使われている。もちろん他県からの利用も大歓迎で、先日は三重県国体の代替大会「とこわか剣道大会」の強化として三重県を含めた3県の選手団が訪れたという。
11月からバローホールディングスの社員として、全日本女子選手権2位等の実績を持つ竹村奈緒美さんを招き入れた。髙石師範と竹村さんは、請われれば、漱玉館を借りて他団体が訪れた際、ともに稽古をする。また、服部幸子教士七段も時間の許す限り稽古に加わる。ただ場所を提供するだけでないところもこの道場の強みといえよう。
今回初めてこの道場で稽古をした久木原裕二さん(東洋水産、七段)に感想を聞いたところ、
「少しだけすべる感覚がありましたが、剣道は少しすべったほうが足への負担も軽減されるようですし、とてもやりやすい」
と絶賛していた。
「ここで剣道がしたい、という人がどんどん増えて、剣道の輪が広がればいいなというのが田代社長の考えです。多人数での合宿はまだ難しい状況ですが、いずれは県外や学校からの泊まりがけもお受けできたら。世界大会の強化合宿にも、と思っているんです」
と、髙石師範が将来の展望を語れば、
「剣道人口が少なくなっている今、普通の道場ではダメ。一度はあそこで試合や稽古をしてみたい、と誰もが思ってもらえるものをつくらなければ、と考えました」
と語る田代社長自身も65歳から剣道を始め、剣道に魅了されている人のひとりである。
月刊剣道日本 2022年2月号に、田代正美社長のインタビュー記事を掲載しています。
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