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海外の〝熱〟に接し日本がしっかりせねばと思いつつ

海外の〝熱〟に接し日本がしっかりせねばと思いつつ

海外の〝熱〟に接し日本がしっかりせねばと思いつつ

―休刊告知号(2018年/No.504)より―

安藤 雄一郎 (あんどう ゆういちろう) 編集部員

そのセリフを聞いた直後の現実に、鳥肌が立つ

 これまで16回開催されてきた世界選手権大会において、団体戦で日本が負けたのは1度しかない。私は、その現場に居合わせた。

 私の仕事はあくまで「大会」取材なので、男子団体戦の日は会場中を走り回り、日本の戦いぶりを見るヒマは全くなかった。ようやく客席に座ることができたのは、準決勝が始まろうとした時。アドバイザーとして同行していただいた高橋英明氏(第11回大会主将)に声をかけたところ、「少し攻めが雑になっているのが気になります」という言葉が返ってきた。その懸念が現実になったのである。日本が初めて負けたという事実も去ることながら、事前にその言葉を高橋氏から聞いていただけに、「トップレベルの人の心眼というのはすごい」と驚愕した。おそらくすべての取材のなかでもっとも鳥肌が立った瞬間だろう。

 その日本を破ったのはアメリカで、クリストファー・ヤング氏がチームのキャプテンを務めていた。その後もアメリカは日本や韓国を脅かす存在であり続けた。「いったいアメリカはどういう状況なのだろう」と思い、彼のもとを訪問した。彼が当時暮らしていたトーランスという街はロサンゼルス空港からほど近い場所にあり、アジア系住民が多い地区。現地の方々の心遣いもあって、ほとんど英語を使うこともなかったし、トーランスの道場へ行けばほとんどがアジア系で、ここはほんとにアメリカ?」と感じた(ヤング氏の母・多恵子さんに案内された地は外国らしかった)。アメリカはやはり多種多様な人が暮らす国なのだ。

韓国・大邱市にある金正國氏が経営する道場

 そのアメリカを決勝戦で下して二代目の世界一の称号を獲得したのが韓国。その2ヶ月後、チームの大将を務めた金正國氏にインタビューをした。写真は彼が経営する道場である。韓国において、剣道はビジネスである。それぞれの国によって剣道を取り巻く環境は違うということが手に取るように分かり、もう剣道は日本だけのものではないのだ、と感じた次第である。

 それはいいことだと思う。だから、日本で今剣道をしている人には、剣道を長く続けて欲しいと思う。今や、アフリカと中東を除けば、ほとんどすべての国の首都へ行けば剣道はできる。グローバル化した現代では、突然海外で仕事をすることになるかもしれない。海外へ行けば不安も増す。現地の日本人会も心強い存在だが、フラッと剣道の稽古場へ行けば、日本人、そして剣道を愛する(たぶん日本を好意的に思ってくれている)現地の人々と触れ合うことができる。これは貴重な場だと思う。

 仮に数年だけ剣道をしてその後すっかりやめてしまったとしても、そこで熱中していた経験は必ず生きる。「えっ、剣道していたの?」で思わぬ人とコネクトできる可能性はあるのだから。

 世界大会に参加した選手たちにもたくさん話を聞いた。そこで感じるのは、日本に対するあこがれ。そうして剣道を愛好してくれる人々の思いに、日本人は答えているだろうか?日本で剣道をやっているという自信と誇りを、日本の愛好家が持てるような誌面づくりをこころがけてきたのだが。

剣道をする目的ってなんだろう?

ロサンゼルスへ行き、クリストファー・ヤング氏にインタビューする安藤。撮影者はアメリカの雑誌「スポーツグラフィック」でも活躍している金野考次郎氏で、金野氏も剣道愛好家

 と大仰なことを謳ってしまったが、あくまで「個人の見解」である。

 ヤング氏に取材をしたとき「僕は二つのライフを生きている」と語っていたことがあった。最近はこの言葉が妙に納得できる状態になっている。

 私は、都内のある教室に会員登録している剣道愛好家の1人だ。ただし、全会員のなかで最も出席回数の少ない会員だと自負している。当然、その教室に行っても指導者ではなく、大人の指導者の方と雑談をしてから面を着けることが多い。

 その雑談の内容は、剣道に関する事がほぼ100%。あえてなのか単純に剣道が好きなだけなのか、他の事は全く話題に上がらない。

 普段は、「今日は○時に帰ったらあれをして……明日は○時に○○へ行って〇〇さんと面談……」といったことを考えながら日々を暮らし、今年はそういったタスクが詰まっていた。多すぎて頭のなかがモヤモヤしてしまっていたのだが、剣道教室へ行けば、そうした日常と完全に切り離された世界に身をおける。稽古をしながら「明日のご飯のメニューは……と考える主婦の方は多分いないだろう。大会取材中は、自分が動いているわけではなく、「次は何をすべきか」頭を働かせているので、日常の一環である。

 良くて1週間に2時間程度、ひどいと2~3カ月に2時間程度だが、そんな時間がある事は、自分の精神状態を崩さずに済む貴重な場だと心から思っている。

 数ヶ月ぶりに教室へ行くと、そのたび見知らぬ顔に出会ったり、子どもの背がグンと伸びていたりする。彼らとの稽古は楽しみでもあり怖くもある。完璧に「抜かされた」「引き離された」と思うことも多々あるから。でも「僕を踏み台にしてくれればいい」という気持ちで今は稽古をしている。(あまりに低い踏み台にならぬよう……)。

 最後に、本誌を長くご愛読くださった皆さまに感謝とお詫びを申し上げます。先人たちがとてつもない労力をかけて築き上げてきた長年の伝統を止めた責任を感じ、慙愧に堪えない思いです。

(おわり)

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