大阪府警で主席師範を務め、第1回世界大会の個人戦優勝者でもある小林三留範士が逝去されました。
範士は数々のビッグタイトルを取っていますが、小誌が創刊されてから獲得したのが、「明治村剣道大会」での優勝です。
この大会のトップページを飾ったのがこの写真です。
こちら、決勝戦ではなく「準々決勝」です。私はこの場に居合わせなかったのですがよほどこの片手突きはインパクトがあったのでしょう。トップページに使われたのは当然の1枚だと思います。
この大会の1年後、小誌では「名選手の得意技」という連載をスタートしました。
1回目は「西川清紀の小手」、2回目は「山下忠典のひき面」と続き、3回目に「小林三留の片手突き」を取り上げました。
「得意技」というキーワードですぐに思い浮かんだのがこの3人でした。とくに小林範士の片手突き、私は「片手突き」すら見たことがありませんでした。緊張とわくわく感を抱きながら大阪府警を訪れました。
私が取材でとくにうなったのが、「(突くとき)右手は引く(右腰に引きつける)こと」でした。左手をどう使っているかばかり頭にあったのですが、まさか右手の使い方がポイントだとは、とビックリでした。
もうひとつ印象に残っていることがあります。
正面から突きを出す連続写真を撮っていたとき、範士の右足がわずかに右斜め前方へ出ることに気づきました。「先生、足は右に出すんですか?」と尋ねたところ、「えっ! 足はまっすぐ前に出しているつもりだけど」と答えたのです。
体の使い方を考えれば、足が多少斜め前に出ることも不思議ではないと思うのですが、範士はあくまで「まっすぐ前に」を意識していた。そのことに驚きました。
ただし、左手はまっすぐ真正面を突いている。それも、何回か同じ動作をやっていただいても、現像された写真を見たら、同じ位置に左手はありました。
正確無比
まさにこの言葉が当てはまる強烈なインパクトに残った1日でした。
範士のご冥福をお祈りします。
剣道の「技の伝承」の意味も込め、片手突きの記事を最新号(2022年12月号、72ページ)に改めて掲載しました。