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「攻防一体」は、仕事でも剣道でも   長榮周作(パナソニック株式会社 取締役会長)4

(前回のつづき)
※この内容は2017年8月取材時のもので、エコソリューションズ社の社名は、2019年4月よりライフソリューションズ社へ変更。また、2018年6月より長榮氏は大阪府剣道連盟会長を務めている。

事業は変わっていくもの
剣道でも向上心を持って

 日本経済は少しずつ良くなっていると思います。輸出もいいし設備投資も良くなっています。ここに来て個人消費も上がっています。おそらく東京オリンピックまではこの状態は続くのではないでしょうか。ただし、アメリカで大統領が代わったことなど、世界ではいろいろなことが起こっています。こういうことが間接的に事業に関わってくるので、現実を注視してうまく対応していかなければいけません。

2017年の経営方針発表を行なう長榮氏

 直近では、2011年と2012年の2年間で約1兆5千億円の赤字を出しています。今、他の電機メーカーのことが話題になっていますがその額を上回っていました。この時期は大変でした。とにかく赤字を生んでいる事業をやめなければいけない。もちろん社員の給与にも影響は出ました。皆さんは、パナソニックは電器メーカーだと思っていらっしゃるでしょう? 実は、家電はテレビも含めて全体の売り上げの20数%しかありません。あとは車の部品、住宅関連、それに「BtoB」という企業間取引。この4つが柱になっていて、さらには細かく30を超える事業部があります。これは増えたり減ったりします。つまり、採算の取れなくなっている事業はやめ、新しい事業をどんどんつくっていくということです。

 剣道のなかにも「攻防一体」という教えがあります。事業において「攻め」というのは成長戦略、「守り」は構造改革だと考えています。ただし、意識まで守ってはいけません。「守る」ではなく、「防ぐ」です。剣道でも「守る」と「防ぐ」は違うとよく言いますよね。「防ぐ」というのは受けたら次に打たなければいけない。構造改革もそうあるべきだと思います。いっとき他の事業に組み替えたり、ちょっと身を縮めてそこからまた攻撃に転じるということをしなければいけない。成長戦略と構造改革がいっしょになって進めなければいけません。これは攻防一体の教えとして、会社の経営方針発表の場でも言ったことがあります。

 事業というのは変わっていくもので、同じかたちでずっと続くことはありえません。そんなことをしていたらすぐに赤字に転じてしまいます。今はとくに時代の流れが早いのですから。

 剣道でも、同じ技を打ち続けているように見えても、向上心を持ってやっているでしょう。そういうところではマンネリ化にはなっていないと思います。とくに私の場合は稽古相手が若い人ばかりですからスピードでは絶対に負けてしまいます。相面で勝とうと思っても打たれます。だから、どうやって使ったらいいか分かりませんが気の攻めをうまく使うとか、間合を盗むといったことをしていかないと。最近はとくに思います。

現在、剣道部総監督を務める吉村信人氏は高校の後輩でもあり、
初めて全日本実業団大会で優勝をとげたときには監督と主将という間柄でもあった。
「監督とか部長としてかなりの団体を優勝に導いている。僕らから見てもこわいぐらいです」(吉村氏)

 道場の中には「正しい剣道」という掛け軸があり、したのは私です。手ぬぐいもつくりました。なぜか私の手元にはその手ぬぐいがありませんが(笑)。

 私が松下電工に入社した当時の社長は、丹羽正治氏でした。私が入社1年目に社長が掲げたスローガンが「正しい姿で」だったのです。責任のある立場になればなるほど、決断を迫られることは増えるわけですが、そんなときには、丹羽社長がおっしゃっていた「正しい姿で」という言葉に立ち返るようにしていました。

「正しい剣道」には二つの意味合いがあります。一つは、「われわれは実業団なのだから、仕事が一番で剣道が二番である。この順番を間違えたらいけない」ということ。二つ目はまさしく「基本に忠実な剣道をしていきましょう」ということです。これは勝っても負けても、です。今年まで師範を務めていた島野大洋先生からも、「剣道部員の基本打ちはすばらしい」と評価をいただき、たいへんありがたく思っています。創業者や丹羽社長の教えは剣道にも通じている、と改めて思っているところです。(おわり)

(ながえしゅうさく)昭和25年愛媛県松山市生まれ。愛媛大学工学部卒業後、松下電工株式会社に入社。その後、サンクス(株)社長、松下電工(平成20年からパナソニック電工に社名変更、平成24年にはパナソニック株式会社と吸収合併)社長等を歴任。平成25年6月、パナソニック株式会社代表取締役会長に就任し、現在同社取締役会長。(一財)日本経済団体連合会審議員会副議長、オリンピック・パラリンピック等推進委員会委員長等を務める。剣道においては高校時代にインターハイ出場、学生時代には中四国学生選手権で優勝2回・2位1回、社会人になってから全日本実業団大会3位等の成績を残し、現在は教士七段。2018年より大阪府剣道連盟会長。

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