金丸公治 かなまる補聴器ヒヤリングケアセンター
剣道界では難聴に対する情報が乏しい。しかし、一般社会でも難聴の人の割合が上がっている今、難聴対策は多くの人が知っておくべきだ。難聴の現状や種類、その要因、対処法は? そして、コンピューターの発達により格段に向上している補聴器について、全国大会優勝校で稽古を重ね、剣道難聴の特性もよく知る金丸公治さん(かなまる補聴器ヒヤリングケアセンター)に聞いた。
取材・文・写真 安藤雄一郎
撮影協力・資料提供 かなまる補聴器ヒヤリングケアセンター
金丸公治さん
(かなまるきみはる)カナマルヒヤリングケア株式会社代表取締役。認定補聴器技能者。昭和51年1月、佐賀県神埼市生まれ。神埼中学校から佐賀学園高校へ進学、高校時代はインターハイ出場、九州大会3位等の実績を残し、創価大学では全日本学生団体ベスト8も経験。卒業後、補聴器メーカーへ就職。昨年、小田急新百合ヶ丘駅近くに「かなまる補聴器」を開業する。
父に近くの道場へ連れられて小学生のときに剣道を始めました。進学した中学校が佐賀県の神埼中学校です。江島良介先生が指導をしている剣道部は全国的な強豪で、私の1つ上の学年で初の全国制覇を果たし、私たちの代で2連覇を達成しました。毎朝6時半から面を着けていましたし、年間で休みは5日ぐらいしかなかったと思います。でも中学校では選手にはなれなかったのが悔しくて、先輩が活躍していた佐賀学園高校へ。当時稽古量が多く厳しいと言われた学校ですが、3年生のときには選手に選ばれ、インターハイにも出ることができました。「努力は裏切らない」、「継続は力なり」ということを身を持って実感しました。だから社会人になっていろいろ厳しい状況に置かれたとしても、当時の剣道でのきつさに比べれば全然楽です(笑)。
大学を卒業後、補聴器のメーカーへ就職しました。デンマークやアメリカの補聴器メーカーに転職して営業部長もやらせていただき、日本国内を飛び回りました。縁あって知り合った耳鼻科医の先生から自分で会社を立ち上げたらどうかと勧められ、昨年「かなまる補聴器」を神奈川県川崎市に開業しました。
これまで27年にわたり、多くのお客様にお会いしてご意見やご要望を直接聞き続けてきました。四国の百貨店にお手伝いに行ったとき、お客様が「(補聴器をつけたら)聞こえるようになった」と涙を流して喜ばれたことが忘れられません。お客様と一緒に感動ができることが、この仕事の喜びです。
認知症の危険度も上がる
難聴の種類と対策
難聴になる原因の多くは「加齢」ですが、ほかにもいろいろ考えられます。難聴には音響性難聴とか騒音性難聴といったいくつかの種類があります。工事現場で大きい音に囲まれている、自衛隊のようなピストルや大砲が身近にある、大音響のなかで音楽の演奏をしている、といった環境は難聴を起こす要因になります。
同じように、剣道愛好家にも難聴の方は多いのではないかというのが私の実感です。とくに剣道の場合は、指導をする先生方が難聴になるケースが多いと思います。竹刀で打突を受ける、かかり稽古で面を打たせる数が多くなれば、大きい音に囲まれた状態です。
横から顔を平手打ちされたときに耳の神経を痛めたり鼓膜が破れるケースもあります。剣道でも横から面を打たれたときに耳に衝撃を受けるケースは充分考えられます。
子どもでも鼓膜に影響を受ける危険性は当然あります。とくに試合になればお互いに気を張っているなかで必死になっています。後方へ倒れて頭をぶつければ、脳しんとうが疑われるので周囲もひと目で分かりますので稽古を中止できますが、耳の場合は周囲は気づきません。でも子どもの場合は「キーンという音が鳴っている」と思ってはいてもそれを周りに言えません。とりあえず数日したら治るかなと考えてしまいがちですが、稽古が連続するような状況だと、耳が悪い状態のまま稽古を何日も続けることになってしまうのです。
「中耳炎」という言葉は多くの方がご存知だと思います。水が詰まったような、こもった音を感じたら、それは中耳炎のひとつの症状です。とくに子どもの場合、そういう状況が何日か続いたらすぐ耳鼻科の先生に診てもらうことを勧めます。
日ごろの対策としては、耳の安静確保に努めることです。その一環として、音楽等を大音量で聞かないこと。車の中で大音量で音楽を鳴らしていれば、耳に大きなダメージを与えます。それからイヤホンを長時間つけている状態も、耳に逃げ場がないので避けたいところです。
剣道の場合は、着用する面に注意が必要です。衝撃吸収剤が薄い面もまれにありますが、これは音も直接耳に響きますので、綿などがしっかり詰まった面を使ってください。それから、面のつけ方ですが、耳を密閉しないような方法をお勧めします。
難聴の症状は人によって異なります。聞こえないだけでなく、聞き取れないのもそのひとつ。「さとうさん」が「かとうさん」に聞こえたり、「さかな」が「たかな」に、「しちじ」が「いちじ」に聞こえるケースもあります。ところが、それは自分ではなかなか気づかない。「よくある聞き間違い」「相手の滑舌がよくないからだ」と判断してしまう可能性もあります。
難聴の方は、つい「2度聞き」、「3度聞き」をしてしまいます。すると、相手に対して「何度も聞き直して申し訳ないな」と思い、会話に参加することから遠ざかってしまう。これが、認知症になるいちばんの原因です。耳から入ってくる音は脳や神経に到達します。音が入らないと脳や神経が働かない。要するに“ぐうたら”になってしまう。これも、認知症の発症リスクも高める要因です。補聴器を使うことは、認知症を防ぐためにも大切なのです。
多機能型補聴器も
AI搭載で技術革新
補聴器を着ける、と言われると、「ジジババ臭い」といった反応をする人が多いのかもしれません。しかし今や、65歳以上の方の2人に1人は難聴と言われています。日本人の近眼の割合もほぼ2人に1人という調査もあります。それとさほど大差がないのです。
「そんなに多いのですか?」と疑いを持つ方もいるかもしれません。視力の場合は検査をすれば一発で近視はわかりますが、聴力は検査自体を簡単にできませんし、日ごろ生活しているなかではよほどの自覚症状がない限り、難聴だとは思いません。調べていないだけで、いわゆる“隠れ難聴”もたくさんいます。
補聴器は近年、大きな進化を遂げています。かつては補聴器のかたちは数種類に限られていましたが、今は耳に掛けるタイプのものだけでなく、イヤホンのようなものも多く出回っていて、4割ほどを占めています。から見ても気づかないほどの大きさで、耳に掛けるタイプでも自分で補聴器を掛けていることに気づかないほどです。
耳のかたちは人によって千差万別です。補聴器を着けて痛い、ゆるいといった違和感を感じたら、調整して空気穴を入れると楽になります。入れ歯が人それぞれ違うのと同じです。
聞こえ方についても一人ひとり違います。音には周波数があって、それぞれを調整する必要があります。一般的には10種類の周波数を調整しますが、多い場合は48もチャンネルがあります。だから補聴器はオーダーメイドでつくる必要があるのです。
Bluetooth(ブルートゥース)が内蔵された補聴器であれば、自分の携帯電話と連動させることができ、補聴器の受信音量を上げ下げすることもできます。携帯の音楽が聴けたり、テレビと連動させてテレビの音を聞くこともできるし、電話(通話)もできます。もっと付加価値のある商品ですと、見守り機能がついている補聴器もあります。使用者が「転倒しました」というのが、お子様や配偶者の方に自動的に伝わるのです。さらにはアメリカの補聴器には翻訳機能がついています。
人工知能(AI)が搭載されている補聴器だと、機械音や風を切ったいろいろな音を分析し、周囲の360度の音の種類をつねに追いかけています。そういう学習機能が補聴器に入っています。
聴力は加齢や環境によって変化しますので、同じ商品を使い続けても聞こえ方も変わります。なので定期的に検査をして調整する必要があります。かつては小さなドライバーを使ってひとつひとつを手作業でやっていましたが、今はコンピューターで調整する時代になっています。スマートフォンを駆使すればご自身で調整もできます。補聴器の電池は、1日中使い続けていれば基本的には1週間で交換しますが、最近は「充電式」が主流です。
適切な補聴器をつけたら
人が変わったかのように…
補聴器を扱っている兼業店が増えています。彼らは耳の専門家ではありませんが、補聴器のほうが単価が圧倒的に高いので、そちらも勧めてきます。そして顧客のほうは言われたままに、それを買ってしまう。しかし、実は全然その方には合っていない。ただ音量が大きくなっただけで耳へのダメージが逆に大きくなっているケースも多々あります。そういう実情を変えていきたいと思っています。補聴器に関することは、認定補聴器技能者という資格を持った専門家が担当すべきで、お客様に合ったものを丹念に選択してお勧めしていきます。最初が大事なので、お試し期間を設けて、デモ機で生活をしていただきます。そこで調整や比較試聴をしていただき、購入品にはデモ機に入力されたデータをそのまま転送します。
視力が変わればメガネのレンズを変えるのと同様に、補聴器も細かな調整が欠かせません。定期的に検査をする意味は、意外なところにもあります。よくよく見ると、補聴器の穴に耳が詰まっていたこともあります。それと、耳のなかが垢だらけだったということもあります。それはスコープやイヤライトで見なければわかりません。私のお店ではスコープも準備していますので、お客さまにご自分の耳の中の画像を見せて驚かれることも多々あります(笑)。知識がない担当者だと補聴器ばかりを見てしまいがちです。
そのようなメンテナンスや調整費は、最初の購入代金に入っています。補聴器は医療費控除の対象ですので確定申告で一部の購入代金が戻ってきます。補助金が出る自治体もありますので、ぜひそういったのも使っていただきたいと思います。
うわべだけで検査をしても、違和感は残る。その違和感が、補聴器を買ったのに使わず、引き出しにしまったままになってしまうのです。そうならないためにも、弊社では最初にかなり細かな検査をします(左上の表)。病院の聴力検査でも、補聴器の専門店でもここまでやっているお店はそう多くはないと思います。
補聴器を使うときは、最初に家族や周りの方が積極的になるのですが、御本人が違和感を持ってしまったら、その時点でもうダメ。いかにご本人に喜んで使っていただくかがポイントです。どこが難聴になっている原因なのかを見つけ出して、そこに対処した商品を提供することは難しくもあり、奥が深いところでもあり、この仕事の楽しいところです。
その人に合った補聴器を使えば、大げさでなく、人生が変わります。先ほど、難聴は認知症のいちばんのリスクとお話しましたが、そうでなくても家族間での会話が通じないことでしょんぼりしている人は多いはずです。ところが、補聴器をつけた途端、ほとんどの方は人が変わったかのように喋りだします(笑)。それまで蓄積していた思いを吐き出すかのように。
人生を楽しんでもらいたい。それがこの仕事をする大きなモチベーションです。学生までは毎日相手に向かって竹刀を振っていましたが、今はお客様のために毎日イヤライトを握っています(笑)。
かなまる補聴器の店舗で顧客に提示する「チェックシート」。
これだけ多くの項目があってもしっかり対応したいと、金丸さんは日々奮闘している
かなまる補聴器ヒヤリングケアセンター
川崎市麻生区上麻生1丁目6-3 新百合ヶ丘マプレ専門店街1階(水曜定休)
電話 044-281-3358 URL https://www.kanamaruhcc.com/
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