この踏ん張りが
大切なんだ、と。
藤原崇郎先生は、日ごろから「稽古するときは稽古して、あとは切り替えて勉強に励む。それから、日常生活と剣道にはつながっている部分があるはずだぞ」と言っていました。もうひとつは、平岡先輩が言ってくれた言葉です。「剣道は道であって、稽古がすべてではない。何かを一生懸命やっていることは必ず何かにつながるはずだ」と。今、それを強く実感しています。医学のことに従事しながらも、必ずどこかが剣道とつながっている気がします。
患者さんと接しながら、「何をこの人は言おうとしているのか」、症状からとらえて診断するだけじゃなくて、その背後には何があるのか、どんな文脈があってその言葉が出てきたか。そういったことを考えることは、実は剣を構えたときに通じています。それから、ただ打ち負かす、当たったかどうかじゃなく、構えたときにその人全体を含めて、お互いが感じるものがある。結果的に打たれたとしても、「かけがえのない瞬間を共有できた」というのは剣道にありますよね。それは医学にも通じているのです。
医学教育の中に武士道の考えを入れている論文がありまして、それを読んだとき、「あぁ面白いなぁ、つながるところも結構あるなぁ」と感じました。医学生のときはあんまりそこまで考えなかったんですけど(笑)。
今は菊川市の剣道連盟に所属していて、週2回、1回30分ほどの稽古に参加しています。最近久しぶりに剣道を再開しました。練った稽古はきついのですが、「この踏ん張りが大切だな」と感じました。剣道で襟を正す、ではないですが、忘れていた感覚が稽古をするなかでピッと戻ってきて、もう1回診療に戻ったときそれが生きてくる。そういうことを感じています。(おわり)
(なるもとけいいちろう)昭和54年1月広島市生まれ。祇園北高校時代にインターハイ個人3位・国体優勝等の実績を残し、筑波大学医学専門学群に入学。4年時に全日本学生優勝大会で優勝を果たす。大学卒業後、アメリカで5年間医学を学んだ後、2011年から静岡県森町に設立された「森町家庭医療クリニック」で勤務する。剣道六段
※鳴本氏のインタビュー記事は、2019年12月号特別企画「知力を活かす・医学生と剣道」内に収録しています。
https://kendonippon.official.ec/items/24213423